忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

心に住むもの(利こま)/忍びは心に鬼が住む。(利吉のテーマより)


▼心に住むもの


 胸に鬼がいらっしゃるのですね。


 小松田というその少年が言った言葉に余りに虚を突かれた為、利吉は人一倍鈍臭い小松田の手が己の懐に忍び込み肌を撫でるのを避けられなかった。
小松田は無遠慮な手つきで利吉のちょうど心臓の上を撫で、はぁ成る程、などと独り言を零している。利吉は優秀な忍びで喉や心臓など急所を人に触れられたことが無いので一瞬驚いて思考が停止してしまう。その合間に小松田はのらりくらりと言うのだ。

「おや、これはお辛いでしょう。」

小松田は其処に何か見えているように利吉の懐を覗き込んで眉を顰めて、そうっと首を振る。嗚呼、いけませんね。痛そうだ。
 すると利吉は不治の病でも宣告されたかの様に思えて、先ほどまでなんとも無かった心臓の辺りが傷む気すらしてくるのだ。馬鹿馬鹿しいような不安を隠して小松田を探れば小松田はきょんと丸い目をして利吉を見上げている。

「…君のそういう寝言が一番嫌いなんだ。」

苛々する、と言って利吉は小松田の手を叩き落した。小松田のやたら暖かな指先が胸から離れていくとずきり、と今度は激しく痛みが走って利吉は眉を寄せて綺麗に整った顔を歪めた。利吉は顔を背けて小松田の脇を早足にすり抜けていこうとするのだが、その袖を小松田が引くのである。

「利吉さん、いけませんよ。入門表にサインをください。」
「鬱陶しいな、君は。…分かったよ。」

利吉が袖を掴む小松田を乱暴に振り払うと小松田はよろけて転んで額を地面にぶつけた。小松田は鈍臭い。地面に放り出された入門表とやらを拾って利吉はさらりと名前を書いた。さっさとこの場から立ち去りたい。


「利吉さん、お辛いでしょう。」

地面に突っ伏して小松田が言う。利吉はそれを無視して名前の書いた紙切れとそれを留める板を小松田の傍らに放った。小松田はそれを機械的に拾いあげてにっこりと笑う。首を傾げる。

「苛々して僕が憎くて酷いことを考えてしまうでしょう。お辛いでしょう。鬼が住んでいらっしゃるのですね。嗚呼、でもそんなにお辛くてはいけません。いつか狂ってしまう、」
「黙ってくれ!」

利吉は鋭く叫ぶ。小松田はにこにことのん気な笑みを浮かべていて腹が立つ。打ち据えて土下座を踏みつけて謝罪の言葉を叫ばせたい。鬼、という言葉を意識して利吉は頭を振り振りそれを打ち消す。


「君に何が分かる」
「忍びは心に鬼が住みますものね」

小松田は手のひらを自分の胸に置いてくるくると其処を撫でる。

「僕のここにも鬼がいました。」

ほんの少し前まで小松田も忍びとして生きるつもりだったといつか利吉もきいたことがある。利吉が胡乱な目を向ける小松田はへらへらと嬉しそうに笑って入門表を握り締めている。うっとりとした目で紙の上を指でなぞり、ふふと息を漏らす。

「字、お綺麗ですね。」

零れんばかりの笑顔を向ける小松田を正視出来ないので利吉は黙って背を向けた。
利吉の細い綺麗な指は無意識に着物の上からぎゅうっと胸に爪を立てている。引き千切れそうだ。利吉は思った。






利吉のテーマ(公式)のイメージで。笑



PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする:

Copyright © No Mercy for mobile : All rights reserved

「No Mercy for mobile」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]