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あの素晴らしい愛をもう一度/(こま利)


▼あの素晴らしい愛をもう一度



「どうしたらそう同じ失敗ばかり何度も繰り返せるんだ」

 茶を運んでくる途中で転んだ小松田がぶちまけた湯飲みの中身に着物の胸元を汚されて、利吉は溜息を吐いている。学習能力が無い、と詰ったりもした。小松田はただただ慌てふためいて、もたつく指で利吉の濡れた着物を脱がそうとして、手を叩き落された。

「すいません、火傷しませんでしたか?」
「してないよ。…中身が水だったからね。」

鼻先で馬鹿にした様に言う利吉の視線の先では中の空になった湯飲みがむなしく転げている。床に広がる水溜りからは確かに湯気など上がっていないようである。あれ、と小松田は首を傾げて見せた。

「君は茶も満足に淹れられないんだな。」

 肌に張り付く布を気持ち悪そうに利吉は見遣って毒づいた。
先頃、小松田に茶を出されたときもこうだった。無理に呼び止められて要らぬ茶を勧められ、やはり茶を運ぶ途中で転んだ小松田に中身を丸々引っ掛けられたのである。
今日はそのお詫びにと、小松田に呼び止められたところでこれである。馬鹿馬鹿しい。学ぶことを知らない奴だ。利吉は苛々と吐き捨てた。

ところが小松田はいえいえそれは違いますと言うのである。

「僕だってちゃんと学んでますよ」
「へぇ、そう。何を?」

そう相槌を打つ利吉の声は自然と冷たくなってしまう。いい加減鬱陶しい着物の肩を脱いで湿った襟元を絞っていると小松田は不躾な位利吉の肌に視線を注いで膝でにじり寄ってきたりする。
利吉が胡乱な目を向けると小松田はそこで動きを止めて、僕が何を学んだかと言いますと…、等誤魔化すように会話を続ける。

「…例えば僕が転んでお茶を零すと利吉さんの着物を脱がすことが出来るなぁとか。どさくさに紛れて触ってみてもいいなぁとか、若しかしたらその」

ぴり、と不穏な殺気を発して利吉は眉を釣り上げたのだが、小松田は鈍いのでへらへら悠長に顔を緩ませている。

「この前みたいなことが出来るかもしれない、ということです。」


 結構考えたんですけど、と小松田は期待に目をきらきらさせている。

 先日のことである。事務室に通した利吉に用意した筈の茶を、小松田は何も無い床で蹴躓いて中身をぶちまけたのである。それから利吉の着物を汚してしまったことに気がついた小松田は利吉の着物を脱がしにかかり、利吉はそれを不本意と思うらしくて抵抗するのでもみ合いになり、そんな内に妙な空気になってしまったのである。
というより小松田が一方的に妙な気を起こしたのだった。
結局、その日なんだか良く分からない内に本懐をとげるに到ったのを小松田はしっかり覚えていて味を占めていたわけである。全く同じ失態を繰り返して見せたのも最早わざとである。

利吉はすっかり呆れ果て、愛想も尽きたといわんばかりに小松田を見返している。その様子を不可解そうに首を傾げてみせる小松田の無邪気そうな仕草がいっそ腹立たしい。眉間に青筋を立てて利吉は怒鳴った。

「同じ過ちをそう何度も繰り返して堪るものか!」

細い指の手をぎゅっと握り締めて叫ぶ利吉の怒りっぷりときたらそれはもう修羅か羅刹と言わんばかりの形相なのだが小松田はのん気なものである。ははぁ、と適当な相槌を打って頷いている。

「そうですよねー。僕もそう思ったんです。」
「は?」

一瞬きょとんとした利吉に小松田はなにやら得意げな様子なのである。実はですね、と小松田が利吉の耳元に口を寄せる。囁かれた言葉の的外れっぷりに利吉はただただ絶句した。

「前は床で痛かったですよね。…と思って奥に布団が用意してあるんです。」

ね、ちゃんと学んでいるでしょう。ひくりと顔を引き攣らせた利吉に小松田はへらへらと笑ってみせた。
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