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メラニン(白凄)/白目過去ねつ造。甘くてラブい。


▼メラニン




 貧しいというのは良くないもんだと、食うに困らない程度の生活を手にしてから初めて知った。土壌の貧しい村の、特に貧しい家に生まれた。兄弟姉妹がぼろぼろ生まれた気がするが、ろくに飯を食えていない母親は何かが栄養が足りないらしい。髪の白いのやら眼の悪いのやらをやたらと生んだが、そういう俺は目玉が全部白いのだった。これでも眼は見えている。
田畑を持たないので程なく家を出て戦に出向き、大根一本ほどの為に命を賭した毎日だったが俺はしぶといのでそのうち忍びにと拾われた。
拾われた先で俺は大根の為では無く、城とか城主とかの為に命を賭すべきなのだろうけれど、俺は頭が悪いので互いに顔も知らない城主に仕えろと言われても良く分からず、現場で直接指揮を取る男に仕えているつもりでいる。なんと言っても俺はこの男が好きなのだ。

「あんたをみたとき俺、綺麗な人だなって」
「はぁ?」

俺が言うと男は怪訝そうに眉を顰めた。女の様な顔では無い。どちらかと言えば荒っぽくて男臭い、そういう顔の男だったが品があった。品がどんなものかなんて知らないが、俺は初めてこの男を見たときに口の開き方やら目付きやら綺麗な男だと思ったし、俺の故郷の餓えてがつがつした村人共と比べては貧しさってのは良くないもんだとも知ったのだ。
少しも真に受けた風を見せないで、馬鹿を言え、と男は言った。

「本気ですよ」

俺は男の前ににじり寄り、肩に手を置く。体重をかけて押すと傾く身体に圧し掛かるようにする。本気なんですよ、言うと少し慌てたような戸惑うような素振りで男の手のひらが俺の顔を押し遣るようにした。

「…分かった。本気は分かったから退け。」
「退きませんー。」

貧しさの何が侘しいと言って、品の無いところだ。学を身につける余裕も無いし、迷信や神懸かりを信じやすく、俺の様に妙な風体で生まれれば縁起が悪いなどと言って母子ともに迫害されるし、暇も知識も無いもんだから娯楽と言えばみんなセックスばかりしてた。嗚呼、下品だ。俺もそんな最中に生まれて生きた。顔を押さえる手のひらを舐めると塩の味がした。うっ、と声を詰まらせて素早く手が引いていくので惜しい。もっと爪先から指の股まで舐りたかった。

「セックス、したことありますか」
「馬鹿にしてんのかお前」

俺が言うと男はカっと頬に血の気を上らせて、ほんの少し怖い顔をしたが初々しかった。俺はこの人の品性、というのに惹かれているのにこういう風にわざと品の無いことを聞かせたり、言わせたり、貶めたり、したいのだ。
なにしろ俺はこの男が、好きだ。
欲というのに例えるなら泥のついた木の根を齧りながら、白い飯が食ってみたいと妄想するあの胃の腑が捻じ切れるような渇望、最早憧れ、崇拝、信仰に近い。

「したいんです。」

居心地が悪そうに身じろいでやや後ずさったのを、逃げるものを追う習性で身を乗り出して追いかけると唇がもう間近だったので口を吸った。
びくりと肩が緊張した後、ゆっくり持ちあがった腕に若しかしたら殴られるかも知れないと思っていたら頭の後ろに手が回って髪をかき混ぜられたのが意外だったが気持ち良かった。男は瞼と唇を閉じている。品が良いのだと、重ねて俺は思った。

 けれど俺はもう少し品の悪いいやらしい口付けがしたい。唇を舐めると、そこまでというように髪を後ろに引かれたので両手で男の頬を掴み無理に手繰り寄せればそこから引き剥がそうとするものと離れまいとするものとで無言の攻防がしばらく続いた。
見苦しく揉み合って、はっ、と男が息を吐いた隙に舌を潜り込ませて絡める。なにしろ娯楽と言えばこんなことばかりだったから、俺はもう慣れたもので遠慮なく口の中の粘膜を貪っていると男は逆に居た堪れない様な顔をして徐々に大人しくなっていくのだった。
随分長い接吻を終えて唇を離す頃には伏し目がちに熱っぽい息を吐いていた。
それでも、着物の袂から手のひらを滑り込ませて肌を探ると、犬か餓鬼にするかのような手つきで俺の頭に手をやって、待て、と言った。
あまりに毅然とするので従いたくなるような仕草だった、そんなに首筋を赤く染めていなければ。

「したい、ってお前…」

何ですかと聞いたら、お前を抱けばいいのかと聞かれたので悪気無く笑ってしまった。

「口吸われてそんなやらしい顔してるのに抱く方をやるつもりがあったんですか」
「うるせぇよ」

ちっと舌打ち。生意気を言いやがって、と耳を抓りあげられはしたが男の気配は甘かった。生まれから碌でもない俺の人生にしては珍しくこの上なく幸運なことに男は俺を嫌いではないらしい。

「俺が、抱きたいです」

 それから堪らなくなって好きですと言うと、そうか、とさり気なく応えがあった。そうして目を閉じる。恐らく上手く伝わっていないのだと俺は思った。なんにせよこの男が好きなのだと言う、他に言葉も見つからないが、それはもっといやらしくて恥ずかしめたいようなそうゆうねちっこい欲望を含んでいることを、上手く伝えられず頭の語彙の貧しさが俺は残念でならない。



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