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ハンデにもならない/※怪我をする雑渡さん 部下雑


▼ハンデにもならない




これと言った手傷を負ったのは久しぶりのことである。

 素焼きの土器に火薬を詰めただけのシンプルな炸裂玉はそれ自体に大きな殺傷力があるものではなかった。直撃する距離にはほど遠く投げられたそれを、有り体に言えば雑渡は甘くみたのである。
 爆風とともに弾け飛んだ陶器の欠片と粉塵から目を庇って翳した雑渡の手のひらに鋭い痛みが走った。

 炸裂玉は逃走の時間稼ぎらしく、それを投げた男は既に脇目もふらずその場から離脱しようと走っていた。
 傷の惨状を確認するより先に雑渡は逃げる背中にクナイを投げた。利き手と逆の手で投げた刃物は真っ直ぐ飛んですとん、と小気味の良い音を立てて逃亡者の首の後ろに突きたった。

仕事の終わりを確認した雑渡がそこでようやく己の手を眺めると、数カ所破れた手のひらの皮膚から金属片がいくつものぞいていたのである。



「組頭、」


 雑渡が傷の程度を調べているとがさがさと藪を鳴らして、男がやってきた。
男は諸泉という名の部下で、雑渡が殺した男とはまた別の標的を追わせていたのである。任務遂行後はそのまま撤退を命じていた。


「どうして戻ってきた」


困ったものだという風に雑渡は眉根を寄せて諸泉を咎めた。立派に命令違反だというのに諸泉は平然としている。


「血の匂いがしましたから」


 雑渡はさらに怪訝な顔をした。雑渡の傍らには死体が転がっている。元々余所の間者だったのか、この生業に嫌気がさしたのか、タソガレドキ忍び軍から逃亡したこの男を始末するために雑渡は追っていたのである。
始末というのはもちろん見つけ次第その場で殺してしまうことであるから血の匂いぐらいはして当然である。
 ところが諸泉はくん、と鼻を鳴らして探るような目で雑渡を眺めている。



「ただの血じゃない、アンタの血の匂いです」
「・・・まるで獣だね、お前は」


呆れた、と笑ってみせた雑渡の翳した真っ赤な右の手に諸泉は無意識に喉を鳴らした。


「見せて下さい」

諸泉は喉に絡んでしゃがれた声を出した。妙に緊迫した気を出しているのは血が恐ろしいのではない。この男は血や肉に性欲を覚える性質で、また雑渡に邪な感情を抱いているから要するに身体が疼いているのだ。
けれども傷の具合を心配しているのも本当である。
諸泉は雑渡の手のひらになにやら埋まっているのを見て顔を歪めた。


「酷いですね、随分深く刺さっている」
「・・・火器の中に釘かなにか混ぜていたらしい。引火時に爆ぜる仕組みだ」

言いながら手のひらに埋まっている破片を押しだそうと周りの肉を圧迫している雑渡の手首を諸泉が慌てて掴んだ。

「ダメですよ、そんな乱暴に。手先は血管やら腱やら集まってますから破損したらことです。私に手当させて下さい。」
「・・・お前だって医術の知識はないだろう?」

そうですけど、と濁しながら諸泉は頭巾を外して雑渡の二の腕あたりを強く圧迫する。肘から下の出血はこれで止まる。

「どこを破損すれば身体が動かなくなるのか、どの程度失血すれば死ぬのか、どこまでなら死なないのか、分かります。」

経験上、と付け足して軽く笑った諸泉の顔は幼い。けれどそんな顔をして諸泉はその経験とやらを人殺しや拷問から学んだのだ。


「手放しで褒められないね」


苦笑する雑渡は手傷を負ったその手を諸泉に委ねた。





さて、焼いて消毒したピンサで程なく摘出された三角錐の金属片が五つ、諸泉の手の中にある。穴の空いた手のひらに裂いた布地を巻き付けてきつく縛ると雑渡は眉を寄せて少し痛そうにした。
帰ったら医療斑に診せて下さいね、と諸泉は言った。


「それから、しばらく右手は使わんで下さい。」
「うん、痛くて箸も持てないよ」
「・・・食べさせて差し上げます」


はは、と声を立てて雑渡は笑ったのだが諸泉は真面目な様子である。戻りましょう、と呟いて黙々と帰路を歩き始める。
背を向けて一歩踏み出して、ふと足を止めた。


「今晩、」
「ん?」

唐突に諸泉は口を開いた。内容も突拍子もないことに雑渡には思えた。

「利き腕無しのアンタを襲ったら抱けますかね」


やってごらん、と雑渡が首を傾けた先には首に一本くないを刺して死体が転がっている。ごくりと唾を飲み込んだ諸泉が結局どうするつもりなのか雑渡は知らない。



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