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今日は小松田くん居ないのかい。
忍術学園の門を潜ってすぐのところで見慣れない顔が事務員の服を着て差し出す入門表にサインを入れながら利吉は聞いた。さり気なく下げた目線で名札に出茂と書かれているのを確認する。そういえば以前、事務員の職を狙っていた子だと小松田から聞いたことがあったかもしれない。
小松田君、と呟いて出茂は一瞬ぴたりと不自然に動きを止めた。
「前の事務員はやめましたよ。」
出茂はいたって事務的に丁寧な手つきで入門表を受け取り、しかし何か続きに喋りたいことがあるようにちらりと利吉を見上げた。多分、如何にして小松田が職を失い自分が代わりに収まったか話したいのだ。なんとなく癇に障るな、と利吉は思ったが、今まで幾ら仕事が出来なくてもしぶとく学園で働いていた小松田が急に学園を去ったわけが気になった。
「へぇ。小松田君、何かしでかしたのかい?」
「しでかしたもなにも、」
あいつとんでもない奴だったんですよ。
声を潜めて出茂が語りだした内容はえらく突拍子もない話だった。
小松田秀作は間抜けで鈍臭い事務員である。以前は忍者の職を探していたが、手裏剣の腕はからっきし、勘が鈍く騙されやすい、忍術のことは良く分かってない、大よそ忍びになれない奴だから学園で事務のお兄さんをやっている。
ところがこれが全て小松田の演技であり罠だったのだという。
ある日、とうとう本性をあらわした小松田は彼が仕事の遅い振りをして陰で実はこつこつ書きためていた学園の見取り図、火薬、武器の数、戦力になりそうな生徒の規模、それらを纏めて逃げ出したらしい。
彼は実はさる城の優秀な忍者だったのだ。
更に小松田の裏切り悪行はここに尽きることではなく、親しみ馴染まれた顔であるのを利用して子供を襲い、木に吊るしあげ、学び舎に火を放ったという。それらは何ら小松田の利益になることではなく単に彼の愉快の為に行われたのだから極悪非道である。
出茂は真面目な顔でそう言ったので利吉は暫く呆気にとられた後、吹き出した。
「ははは、まさかそんな。」
「冗談ではありません!」
あの小松田君が。
と、既に笑えて仕方ない利吉には出茂がムキになって、小松田はくのいちの女の子を乱暴し学園長の飼ってた犬まで殺してしまったと罪状をあげ連ねるごとに滑稽味が増すように思える。
「それでこの優秀で善良な私が奴のかわりに!」
やっぱりこいつ嫌な奴だなと利吉は思った。聞いた話ではどうも以前から小松田の職を狙って目の敵にしていたそうじゃないか。
学園で教師をしている利吉の父親が留守であった為、利吉は言付けのみ頼んで帰ることにした。
「だから先生方は今総力を挙げて小松田を追跡中なんですよ!」
「ああ、そう。父によろしく。」
しばらく埒の明かない話をした後、結局馬鹿でも鬱陶しくてもいいから事務員は小松田君がいいなぁと利吉は結論を出した。
「君、なんか酷いことしでかしたんだって?」
帰り道、利吉は学園からそう遠くない茶屋で小松田に会った。
小松田は利吉を見て嬉しそうにへらぁと笑顔を浮かべたが利吉がそう言うと、ふと真顔になってそうです実はとんでもないことをしちゃったんです、と言いだした。
「学園長にお茶をぶっかけた上に転んで大事な掛け軸やぶっちゃったんですー。」
「ははは。」
とうとう、出ていけって言われちゃいました。
小松田がそう涙ぐみ、利吉はなんだやっぱりそんなことかあの嘘つき事務員め。と思った。
ふたり並んで茶屋の長椅子に腰を下ろす。
「それでね、僕慌てて飛び出してきたんですけど忘れ物しちゃって。」
「なにを忘れたんだい?」
「手紙。」
小松田が彼の仲の良いお兄ちゃんとやり取りしていた手紙の束を焦っていてうっかり持ってくることが出来なかったのだと小松田は言った。
取りに戻ったらまた怒られてしまうかも、と項垂れる。大事だったんですよぉ、と伸ばし気味の語尾で縋るように見上げられて利吉は悪い気がしなかった。
「もしかして、これのことかな。」
懐から出したのはまさしく小松田のいう手紙の束である。実は先ほど学園に寄った際、出茂がこれは小松田の暗号化された密書に違いない、同じ事務員の勘で預かっている、と主張していたものなのだ。手紙なんて私物を取り上げるなんてと利吉が咎めて引っ手繰ってきたものでもある。小松田は目を輝かせた。
「さすが利吉さん!素敵です!」
小松田は利吉の腹辺りに勢いよく抱き付いた。どん、と身体ごとぶつかる重みを感じる。小松田の身体は柔らかく生温かい。背は低いがあんまり軽くは無い。勢いよく後先考えず飛び込む。どん、と。腹の下が痛い。血が出ている。おかしい。身を引いた小松田の手に刃の短い忍び刀が握られていた。へらぁと締まり無く笑う。
「利吉さん、大好き。馬鹿みたい!」
「…ははっ。」
嘘でしょ?
笑ったつもりの利吉の唇からごぼっと血が噴き出た。
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