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白痴4 (部下雑現パロ 白痴シリーズおまけ)

▼白痴



番外編 (その後のとある一日の話)
 
4、あのひとは死んでしまいました。



 男は声をあげて泣きやまない。俺は途方に暮れて、床に座り込み男の腕を押さえている。傍らに、叩き落とした包丁があった。男は包帯だらけの顔から唯一覗く片方だけの目玉からぼろぼろ涙を流して泣いている。腹を切りたいと言った。開けっ放しの窓からはオレンジ色の日が差して夕暮れが近かった。それにしても余計なことを言ったものだ。

空の色が赤くなると男は時折、ふと思い出したように、ああ帰らなきゃと言いだす。そうして玄関もしくは窓から本当にふらりとどこかに行ってしまうのだ。夕飯のための買い物に出ていた俺は買い物袋を玄関先に放り出し、屋根の上やら塀の上やらに男を探しに行くことが度々あった。
そろそろお城に帰ろうよ、と男は我儘を言う。俺はとうとうくたびれて、もういいじゃないですかと言った。家ならあるし、飯だって作るし、布団だって狭けりゃそのうち買い足したって良い。
すると、男は何を言っているんだと驚いた様子だった。

「忍びはなにがあっても主のところに帰らないといけないじゃないか」

俺はそれを聞いて腹が立ったのだ。飯も寝るところも用意しているのに、忍びだから主だからで他所へ行くと言われたのじゃ俺の立つ瀬がないじゃないか。
しかし、どうしてこんな意地の悪いことを言ってしまったのか。西日の射してるアパートへ男の手を引いて帰って、俺は男に真面目な顔をして言った。

「殿様は死んじゃいました。」

私も一緒に死ぬよ。酷い鼻声で訴える組頭の手首を取り押さえて俺はまだしばらく夕飯の支度に取りかかれそうにない。




  

10/5/24

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