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鬼の花嫁(長次と雷蔵)※/鉢雷前提。雷蔵(♂)が懐妊につき※


▼鬼の花嫁





どうか私の腹を力いっぱい殴って下さい。

床に手と額を擦り付けてそう懇願してきた後輩の頭を眺めながら長次は眉を顰めた。所謂土下座の体で頭を下げているこの後輩は不破雷蔵という。人当たりがよく真面目な性質で、面倒見も良い。長次が委員長を務める図書委員の中でもっぱら下級生の面倒を見てくれているのは雷蔵である。この良く出来た後輩を褒めてやりたい気さえすれ、力いっぱいに殴ってやる理由など長次にはさらさら思いつかない。

「何故、」

ぼそり、と長次は訊ねた。雷蔵はそろそろと顔を上げて深刻そうな顔をした。実は、



「腹に子供が居ます」



真剣な面持ちで言われた台詞に長次は目を見開いた。思わず雷蔵の腹の辺りとその顔とを幾度か交互に眺めてみたが、まさかそんなことがあろう筈がないのだと思いなおす。
 長次は雷蔵は決して浅学では無いと思っているのだが、それでも訊ねずにいられなかった。


「不破。その、知っていると思うが男は子を孕むことは出来ない」


すると雷蔵は長次の言葉にひとまず頷いて見せた上で、しかし、と言葉を繋いだ。


「しかし、あれは鬼の子です。」
「あれと言うのは、」


長次が訊ねると雷蔵はふい、と眼を逸らして言い難そうにその名を口にした。

「三郎です。」

アレは人の子ではない。鬼の子である。だからアレと交わって男の身である自分が身篭るという不思議も起こり得たのだと雷蔵は言う。腹の中に命の気配があると最近になって気がついて雷蔵は慄いたのである。子を生むことは恐ろしい。だからこの腹を突いて子を殺して欲しいのだと雷蔵は半ば涙ぐむようにして長次に訴えた。
 
 雷蔵と三郎が特別に親しいことは誰の目にも明らかなことであったのだが、真面目な後輩の口から直接「交わる」という言葉を聞いて長次はたじろいだ。鬼の子を孕んだというのもまた突飛な話である。何かの思い違いだろうと、長次は思っているので可愛い後輩の腹を殴る気にはなれない。雷蔵は無意識なのか指の長い手で、己の腹の辺りを撫でている。長次は何故か其れを見てぞっとした。


「そういった話は、保健委員長に相談してみては…」


悩んだ末、そう意見を述べると雷蔵の顔色が変わった。眉を悲痛に顰めて、顔を青褪め、いいえいいえと首を振る。


「あの人は駄目です。あの人だけは駄目です。私も一度は保健委員長を頼りましたがあの人は命を無駄にするのを決して許さない方です。元気な子を産もうね、等と。あの人は駄目です。」


お願いです。助けてください。恐ろしくて仕方がない。
雷蔵は長次の逞しい手に縋った。この手なら鬼の赤子も殺せましょう、雷蔵は長次の手を自分の腹の下に導いた。じわりと手のひらに伝わる熱を振り払うように長次はその手を解いた。


「不破…、気のせいだ。この世に鬼は居ないし男は子を成さない。」


雷蔵は打たれた様な顔で長次を見返した。





 晩のことである。雷蔵が臓腑を傷めて保健室へ運ばれたという。腹を酷く打ったらしい。よく引き締まった雷蔵の腹にはどす黒く打撲のあとが残っていた。
昼の話も気になって長次が見舞いにいくと入れ違いに保健室から、保健委員長である伊作が出てくるところであった。

残念なことをする、

ぽつりと呟いた伊作が手に持った白い布に包まれているものがなんなのか、長次は敢えて見ないように隣をすり抜けて保健室の扉を潜った。


 
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