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飼育係/(竹久々)対人恐怖症の久々知


▼飼育係




 群からはぐれたような動物を手懐けるのが竹谷は得意である。
冬を渡りそびれた鳥やら、野良犬やら野良猫やら、敏感に嗅ぎ付けては竹谷はそれを拾っていくのである。
 クラスの違う久々知兵助という男に初めて声をかけたのも、大体そんなような感覚だった。







「はっちゃん、」


 久々知という男は極端に表情に乏しい男であったから、そんな風に懐っこい呼び方で竹谷を呼ぶのは端から見て大変不気味である。
 けれど人嫌いの感のある久々知に親しく呼びかけられて竹谷は嬉しそうな顔をした。


「おう、兵助。」


晴れやかな笑顔で振り向いた竹谷の五歩手前で久々知は足を止めた。竹谷は飼育小屋の檻の中にいて、その隣で灰色の毛並みの狼がぎゃんぎゃんとこちらに向かって吠えているのだ。


「こいつ手負いだから機嫌悪いんだ」


竹谷は笑って毛を逆立てている狼の頭をこともなげに撫でている。


「何で噛まないんだろう」


 檻から出てきた竹谷に久々知は尋ねた。
毒蛇の檻やら毒虫の檻やら、凡そ意志の疎通の取れなさそうな生き物の檻へ入って世話をする竹谷を久々知は不思議だと思って眺めていたのだ。



「それはお前、俺のことが好きなんだよ」


 竹谷は得意げに笑っている。
背後の檻でぎょろんとなにを考えているかわからない目で大蛇がこちらを見ている。こんな表情に乏しい生き物のなにを見てそんなことが言えるのか分からない。


「こいつら大体、群に帰れなくなったやつらばっかりなんだ」


檻の中の動物を指して竹谷は言う。甘やかしすぎると野性に帰れなくなるから良くないらしい。
お前も他の奴らと仲良くしないと駄目だぞ、と変な説教に続けると久々知は相変わらずの無表情で首を振った。


「気持ち悪い」
「ってお前・・・」


 久々知は中性的な、有り体に言って綺麗な顔をしているが酷く表情に乏しい男で、端から見て取っつきにくい。さらに本人が人を避けるように、息を潜めているからどうしても周りから孤立してしまうのである。
 竹谷は久々知が周りの人間に打ち解けられるよう導いてやりたいのだが、久々知は人の気配が気持ち悪いと言い張って仕方ない。
 

「気持ち悪い。吐きそうになる。はっちゃん、俺友達にレイプされた。気持ち悪い。肩がちぎれるくらい噛みついてやった。」


久々知は竹谷にすり寄ってくるので竹谷はその頭を緩く撫でてやった。


「何で噛まないんだろう」


人に触られるのが久々知は嫌いなので、大人しく頭を抱かれている自分に首を傾げてしまう。
ぱちぱちと表情のない目を瞬いているこういう動物の心を読むのが竹谷は得意なのだ。


「それはお前、俺のことが好きなんだよ」


 竹谷が教えてやると、久々知は不思議そうな無表情で好き、と復唱した。
 竹谷は群からはぐれた獣に懐かれるのが得意であるが、群に帰してやるのは酷く下手くそなのだ。


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