忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

臆病な嘘つき/(雷蔵受け)三郎が失踪


▼臆病な嘘吐き




学園の中に、普段生徒たちが寝泊まりするものとは別に一棟長屋があるのだ。
学舎からも用具庫なんかからも離れたところにぽつりと建っている長屋は感染病や過酷な授業に心をおかしくしたような、そんな生徒の療養に使われるものである。

そんな長屋の一室で雷蔵は何度目になるか分からぬ溜息を吐いた。


「そろそろ授業に復帰させてくれても良さそうなものなのに、困ったな。身体が鈍ってしまう。」


 雷蔵は向かい合って座っている三郎にそう愚痴をこぼす。


「まぁ、しばらくの辛抱さ」


三郎は毎日授業の終わりにこの離れまで顔を見せにやってくるのだが、どんなに訊ねても雷蔵がこんなところに押し込められなければならない訳は教えてくれないのである。
けれど雷蔵にも心当たりがなくはない。



数日前のことである。
三郎が雷蔵の前から姿を消してしまった。

朝から姿の見えなかった三郎が、夜になっても再び朝が来ても帰らぬことに気づいて雷蔵は学園中をまず探し歩いたのである。
三郎、三郎と呼びながら学園の敷地内を歩いて探して、すれ違う全ての生徒を捕まえてお前は三郎ではないか、と訊ねたのである。それこそ明らかに背丈の小さすぎる下級生も捕まえて、と言った次第であるからみんなすっかり雷蔵がおかしくなってしまったと思った。

それで数日後三郎が素知らぬ顔で雷蔵の前に現れたときは雷蔵は既にこの離れ長屋に移されてしまっていたのである。
雷蔵は幾度になるか分からない溜息を吐いた。



「もうここから出してくれたって良いと思うんだ。」



確かに僕は少しおかしくなっていたかもしれないけどね、雷蔵がそう言うと三郎は複雑な顔をした。







「ごくろうさん」


離れから帰ってきた三郎に兵助がそう声をかけると三郎は顔を手で覆って偽の顔をバリバリと剥がした。

正確に言うとそれは三郎ではない。

不和雷蔵に変装する鉢屋三郎というややこしい変装をした竹谷八左ヱ門という男である。


「雷蔵は気づかなかったか」


兵助の質問に八左ヱ門は渋い顔で頷いた。


「駄目だ、完全に狂ってる。俺の下手な変装に気づかないどころか、あれじゃ誰を見ても三郎って呼びそうだ」



八左ヱ門はすっかり濁ってしまったような雷蔵の目を思い出して身震いした。それも全て三郎が悪い。

数日前、三郎は居なくなってしまったのだ。
ある朝雷蔵の隣から姿を消してしまった三郎の行方は誰も知らない。

三郎は死んでしまったのだという噂がまことしやかに囁かれた。それ以外に三郎が雷蔵の前を去るときなど誰も思いつかなかったのだ。

それで雷蔵は三郎を捜しながら睡眠を取らなくなって飯を取らなくなってしまった。うわごとのように三郎を呼ぶばかりである。
このままでは衰弱して死んでしまうに違いないのを見かねて、八左ヱ門は一芝居打ったわけである。しかし、


「もう俺雷蔵のとこ行けねェわ。気の毒で見てられねェ。」


接吻強請るんだよ、雷蔵が。
八左ヱ門の言葉に兵助は同情的な顔をした。

「してやればいいじゃないか」


三郎は生死不明だろ。
構わないさと兵助は言うのであるが八左ヱ門はそうは思わないようである。

「生死不明だろ、生きて戻ってきたらと思うと怖くてうかつなこと出来ねぇよ」
「ふぅん」

可哀想な雷蔵。
兵助が他人事のようにつぶやいた。
PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする:

Copyright © No Mercy for mobile : All rights reserved

「No Mercy for mobile」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]