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金平糖はお星様/厳禁にお菓子を貰った仙蔵 文仙


▼金平糖はお星様

 

  紅色・薄桃・白・黄色…。
袋にいっぱい詰った金平糖をざらざらと白い手のひらに出してみて仙蔵は優しく笑った。

「文次郎、ほら。しんべえと喜三太からだ」

お星様です、と言って袋にいっぱい砂糖菓子を引っさげてきた馴染みの一年生を仙蔵は苦手としていたけれども自分を慕ってくれる良い子の後輩を決して嫌ってはいないのだ。
手のひらに広げられた狭い星空を文次郎はちらりと見て眉を顰めただけでなんとも言わなかった。
仙蔵はそれを別に気にもしないらしい。


「可愛いだろう?」

と、それは手のひらのお星様に言ったのか頬のふくよかな子供達を思って言ったのかは知れなかったが仙蔵はやはり柔らかく笑った。

文次郎はそれを横目に見て好ましくないと思った。

仙蔵は元々華奢で小奇麗な作りだったから、火矢でなく砂糖菓子を持って、酷薄そうな無表情でなく慈愛に満ちた笑顔を浮かべたりなどするとまるで可憐な少女のようで文次郎の居心地はとても悪かった。

かり、と仙蔵の白い前歯が薄桃の金平糖を一粒噛み砕いた。
今日はいつもよりずっと柔らかい雰囲気の仙蔵が気に入らないくせに文次郎は仙蔵の白い指先が菓子を摘むのと唇へ運ぶのを熱心に見ている。

ひとつ、ふたつ、それを口に放り込むとそれで終わりらしく仙蔵は金平糖の詰った袋の口を縛った。
普段から好んで甘いものを食べているのを見ないから格別に菓子が好きなわけではないのだろうと文次郎は思った。

「どうせ全部食わんくせに」

文机の引き出しに大事そうに袋をしまおうとするのをみて文次郎はそう仙蔵に言った。

「まァ、…気持ちだよ。」

仙蔵は否定するでもなかったが、しかしその声は優しかったので文次郎はいよいよ腹が立ってきた。
この菓子袋がいけないのだ。
この菓子の甘ったるい匂いが目の前の男をこうも甘くつまらないものにさせているのだ。それに腹が立つ、と文次郎は自己解釈をして仙蔵の手から金平糖を取り上げてしまった。

「あ…」

手のうちから攫われてった菓子を仙蔵が心とも無げな目で追って、その目が文次郎に行き着き次第に不機嫌そうに鋭く尖り始める。

仙蔵から甘い空気の薄れたことで文次郎の機嫌は「極めて最悪」から「虫の居所が悪い」あたりまで回復した。

「子供染みた真似をしてくれるな、文次郎」

と言った仙蔵の方こそ子供のように唇を尖らせている。
お前も欲しいならそう言えばいい、と馬鹿なことを口にした仙蔵の頭の上で袋をひっくり返してやるとざらざらざら…とまばらな音を立てて床一面に金平糖が散らばった。
仙蔵はといえば菓子の雨に降られて呆然とした顔をしている。

頭の上で一度跳ねて下りてきた一粒が頬をこつん、と打つとそこで緩く瞬きをした刹那、仙蔵は怒りを露に文次郎の胸倉に手を伸ばしてきて、軽い取っ組み合いのようになってしまったので文次郎は仙蔵の細い手首を捕まえてそのまま勢いにのせて床に押し倒してやった。

子供達の心づくしの金平糖が台無しになって広がっている床。
お星様というより桃や白の小さな粒が広がる床は花畑のようで実に胸糞の悪い光景だった。
オマケにあちらこちらに尖っているその菓子は膝で仙蔵ににじり寄る文次郎の下でささやかながらもちくちくと地味に痛みを送ってくるので、文次郎はそれが子供達の抗議であるようにも思えて眉を顰めた。

うるせぇ、お前らの大事な先輩はこれから俺に手篭めにされんだよ。

そう大人気ない御託を心中で吐いて、床に縫いとめた仙蔵の背中を少し浮かせて手で辺りの菓子だけ払いのけてやる。
ぱらぱら音を立てながら小さく跳ねて部屋の隅に転がっていった、たかだか金平糖にざまぁみろと文次郎は思った。

星空だか花畑だかは悲しげに仙蔵が次第に艶やかな嬌声を叫ぶのを囲んでいた。


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