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振ら恋慕(庄左ヱ門×鉢屋)/鉢雷前提。会話してるだけ


▼振ら恋慕


「僕はあなたを可哀相だなぁとずっと思っていました。」


庄左ヱ門は利発そうな目をして真っ直ぐに言うのである。三郎は器用に眉を片方だけ上げて、甚だ遺憾、と言った顔をした。


「先輩様に向かって同情とは、恐れ入るな。庄左ヱ門。」
「まぁ、そういうところが、ですよね。大変お気の毒に思えます。」

庄左ヱ門は三郎の隣で背筋をぴん、と伸ばして教科書なんか読みふけっている。此方は胡坐をかいて項垂れていた三郎は、軽く眉を寄せて庄左ヱ門の手から教科書を引っ手繰ってぽい、と捨ててしまった。


「少しは自分で物を考えないと馬鹿になるぞ」
「ありがとうございます。でも僕も一年は組のはしくれですから無茶も融通も利きますし、ご心配には及びません。常識を知ることと捉われることは、別です。」


庄左ヱ門は広げるものの無くなった両手を綺麗に正座の上に置いてつらつら言う。
三郎の眉間にぐっと皺が寄った。

「賢いな。…可愛くないぞ。」
「はぁ、まあ。」

投げられた教科書をちらちらと気にするように見ながら庄左ヱ門は曖昧に頷く。三郎はただ俯いて床の木目なんか見つめている。庄左ヱ門がちょっと首を傾ければ三郎の顔を下から覗き込むことが出来た。三郎はいつも三郎の級友の顔を貼り付けている。庄左ヱ門がまた口を開いた。


「それでいうと鉢屋三郎先輩は可愛いですね」
「私を馬鹿だと言っているのか」

三郎は顔を上げもしないがむっとした声を出す。鉢屋三郎は学園に入った最初の年からずっと天才と名高かった。実際彼は優秀なのだ。
ところが大人びた庄左ヱ門はそんなときだけ子供特有の図々しさでその三郎に物申す。

「だって未だ不破先輩の顔をつけていらっしゃるようですから。…そういえば失恋おめでとうございます。」

ぐぅ、と三郎は喉を詰らせたような声を出した。庄左ヱ門は清々しいような顔で隣に鎮座している。三郎がずっと思いを寄せてきた不破雷蔵という名の級友は、今朝だか昨晩だか、とにかく三郎の知らない間にどこぞに消えてしまった。枕元に、付いてきてはいけないよ、と優しく諭す手紙があった。少し早く忍びとしてひとり立ちするらしい。不破雷蔵がひとり卒業を早めたのは三郎を撒くために違いない。
 三郎の背はどんどん丸まって額が床に付きそうになってしまった。


「…分かったぞ、庄左ヱ門。お前私を泣かそうとしているだろう、生意気な!」
「お泣きになった方が楽だと思っただけです。」


庄左ヱ門はぽん、と自分の膝を叩いた。小さな膝には教科書がなくなってしまったので丁度空間が空いているというわけである。三郎は子供の生意気に胡乱な目をした。


「馬鹿を言え。雷蔵の膝でも泣いたことがないというのに!」
「はぁ、まあ。」


お可哀相に、と思って僕はそれを見ていたわけですが。
庄左ヱ門は心の中でそう続きを締めくくって空の膝を叩いた。この膝がもっと大きければ良かった。頑なに床を見続ける先輩様の丸い背中の所為で、そういう風に思った。

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