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おともだち(綾部と滝夜叉丸)/滝夜叉丸と友達になりたい綾部。若干こへ滝前提


▼おともだち




「滝夜叉丸は友達いないの?」



 もう布団に潜り込んで半分眠りかけていた滝夜叉丸はそう声をかけられた目を見開いた。声を掛けてきた相手は同室の綾部喜八郎で、眼を開いた滝夜叉丸の鼻先数センチのところで此方の顔を覗きこんでいるので滝夜叉丸はひっ、と喉から悲鳴を上げてしまった。

どうにも人から避けられているようだ、ということを昼間滝夜叉丸は寄ってきた一年坊主に零していたりしたのだが、どうやらそれを綾部は聞いていたらしい。滝夜叉丸は多少むっとして綾部の問いを意図的に無視するのだが、重ねて問うてきた綾部の台詞は少し意外だった。

「私は?友達じゃない?」
「は?」

滝夜叉丸は暫く考えた。この綾部という男と自分はどういう人間関係を築いてきたか、と今一度考えてみた。考えてみたところでさして友好的な交流をした記憶は無かった。全く完全に無かった。第一そうだ、

「お前は私を好いてないじゃないか」

滝夜叉丸はそう結論付けると満足して、布団を被りなおすと目を閉じて眠りにつきなおすことにした。
 その滝夜叉丸の身体に布団の上から圧し掛かったまま、綾部はぱちと目を瞬いた。綾部は滝夜叉丸をとても好ましいと思っていて、自分ではそういう表現をしていると思っていたので滝夜叉丸の言葉はとても不思議だった。不思議だったので綾部は滝夜叉丸に問いかけた。


「なんで?」


なんでそう思うのかと訊ねながら綾部は滝夜叉丸ににじり寄った。滝夜叉丸は面倒くさそうに頑なに目を閉じていて、そのまま寝てしまいそうだったので綾部は滝夜叉丸の髪の毛を引っ張った。ぶちっと小さく音がする。これには滝夜叉丸も咄嗟に目を開いた。

「痛い!…こら、喜八郎お前…」
「なんで私が滝夜叉丸を嫌いなの」

 自慢の髪を毟られて抗議の言葉を紡ごうとした滝夜叉丸だったが、目の前に綾部が顔をずいと近づけてくるのに気圧されて黙り込んだ。
ねえねえなんで、と聞きながら綾部は大きな目をきょとんと見開きながら滝夜叉丸の両頬をつまんで引っ張っている。綾部の指の間には先程ぶちっと音を立てて抜けた滝夜叉丸の髪の毛が絡まっている。
なんでと聞かれても滝夜叉丸は綾部から自分に対しての好意を微塵も感じられない。

「人の髪を引っ張ったり抜いたり、顔を引っ張ったりするからじゃないか?」

それに泥だらけの手で私の顔を触るじゃないか。折角自慢の顔なのに。滝夜叉丸が苦情を上げ連ねると綾部は無表情ながら眉を寄せた。納得いかない、分からないという顔だ。

「でも、滝夜叉丸は七松先輩が好きでしょ」
「なんで先輩が、」

 滝夜叉丸は急に出てきた名前に困惑した。七松先輩と言うのは滝夜叉丸が所属する体育委員会の委員長で、なんというか無茶な男だと滝夜叉丸は思っていた。人の話は聞かないし、髪をひっぱるし、泥だらけの手を洗いもせず滝夜叉丸の自慢の顔に触れてくるし、えらい男の後輩になったものだと滝夜叉丸は思っていた。けれど確かに滝夜叉丸はその七松という先輩が嫌いではないのだ。好きかと問われれば、散々長々言い訳をした挙句最後にはまぁ好きだろうという言葉が出てくるかもしれない。

「私も滝夜叉丸に好かれたい。だから私も滝夜叉丸に乱暴するの」

 高らかに綾部は宣言して両腕を広げて滝夜叉丸に飛びかかった。わー、と抑揚のない雄たけびを上げて滝夜叉丸の頭をホールドしては髪の毛をぐしゃぐしゃと掻きまわす。
されるがままの滝夜叉丸は、そうかあの男の無茶苦茶は傍からこんな風に見えていたか、と己の身を改めて不憫がった。この野郎、と思って日頃の鬱憤を晴らすように綾部の頬をつねって両側からひっぱると、頬を引き伸ばされた顔で綾部が、笑った。


「私たち友達だよね」
「知らん」

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