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悪い大人と良い子供 (雑食満)雑伊前提。

▼悪い大人と良い子供


 少年はどうあっても私を悪者にしたいらしい。ギラギラ光る刃を突きつけて伊作を返せと私を詰った。伊作。善法寺伊作君。少年の言う彼のことなら良く知っている。怪我人の手当てが趣味の一風変わった人間で、少々迂闊。少女の様な面立ちに眼差しが凛々しい。歳は十五になる。笑った顔がとても可愛い子だ。優しそうに笑う。優しそうだ、という点に私はふらふら蟻が蜜にたかる様に惹かれたのだ。

「返せってなんだい。伊作君どこか行っちゃったの?」

私はあまり少年を挑発しないよう、さり気なく刃を横に反らした。伊作君はつい先ほどまで私と呑気にお茶を飲んでいた筈だから、何処かへ消えてしまうということも無いと思うのだが。少年は刃と同様ぎらぎら鋭い眼差しをしていて、お前が伊作を変えたのだと言った。何を言いたいのかは分かる。
卒業を間近に伊作君はすくすくと健やかに忍びとしての成長を歩み、私は夏ごろ彼に向けた忍者に向いてないんじゃないかという発言を撤回せざるを得なかった。与えられた仕事を黙々こなし、時に人を傷つけなくてはならなくても哀願などに惑わされず、伊作君は非情になれたのだ。
君、それは私が唆したことでは決してなく、彼の固い決意と弛まぬ努力に依るもので寂しくても褒めてやらなければならない。
等と大人の私には言えるが、少年は悲しかろう。親、兄弟、若しくは恋人の様にぴったり寄り添って伊作君の迂闊で優しい性分を見守ってきたと聞いている。

「留三郎くん、」

人の優しさに私は弱い。私の周りでは優しい人間から片っ端に死んでいくから優しさは貴重だ。優しい人間に私はふらふら惹かれて手を出してしまう。
友達の為に怒り、感情をむき出しに刃を突きつける少年も私にはとても眩しくて欲しくなった。

「じゃあ君、伊作君の代わりにならないかい。」

伊作君は私のものではないけれど。
私が心の中でそう付け足しながら少年を覗き見ると少年は揺らいだようだった。いや、考え込んでいるふりをしているだけで、少年はいつでも伊作君の不幸を代われるのなら代わってやりたいと思っていることを私は知っている。

伊作から手を引くんだな。
少年が確認の言葉を口にした。優しい子だ。優しくて人が良く騙されやすい、良い子だ。

「約束するよ。」

私の紙一枚より薄い言葉を信じて項垂れた少年の首筋は瑞々しく白く光っていた。


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