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兎ちゃん/花粉で目が痒い仙蔵 文仙


▼兎ちゃん



 痒い、と言って仙蔵がむずがっている。
春の陽気にそこら中で色とりどりに花が咲き誇っているが、その花のまき散らす花粉というのが仙蔵と上手く折り合わないらしい。空気が粉っぽくて目が、痒い。仙蔵は駄々を捏ねてがりがりと目元を掻き毟っている。些かヒステリックな勢いだ。
そんな様子を同じ部屋でなんとなく見ていた文次郎もその内気になって、おい大丈夫かと仙蔵の顔を覗きこんで様子を窺い始めた。
うぅ、と低く呻いて仙蔵が首を振る。文次郎の頭には真っ先に保健室とそこに入り浸っている友人の顔が浮かんだのだが、仙蔵はそれを渋った。


「なんだか知らんが目薬というのがあると伊作が言っていたな」
「…目に薬を塗るのか?」


嫌だ、得体が知れない。と仙蔵は言った。
文次郎は、人の良い伊作がこと薬や新しい治療法に関してのみ妙に果敢に挑戦的であるのを知っているのでまぁそりゃそうだと同意して何も言わない。けれど仙蔵が長い爪の生えた指でがりがりと目元を引っ掻き続けるのは見かねて手首を掴んだ。

「ああ、やめとけ、もう掻くな。目ぇ、傷つくだろう。」


 本当に、目玉を穿り出しそうな勢いだったので文次郎は少し真剣な声を出した。きっ、と怒ったように眉を吊り上げて文次郎を見上げた仙蔵の眼は真っ赤に充血して、掻き毟ったせいで涙が潤っている。真白い顔に赤い目が毒々しい。文次郎はぎょっとした。
両手とも捉えられて仙蔵は身を捩っている。


「放せ、文次郎。我慢がならん。」


苛々とした声をあげても細い手首は文次郎の腕を払えず、仙蔵は固く目を閉じたり開いたりを繰り返している。痒みが余程酷いのだろう、もぞもぞと足を揺らし首を振り、あーとかうーとか声にならないうめき声をあげている。暴れるので息が乱れる。
どうにもいやらしく見えるので困ったもんだと真剣な顔で文次郎が思っていると、極めつけの留めの様に仙蔵が鳴き声を出す。


「ううぅ…あっ、あ、もう駄目だ…駄目だ、もんじろぉ…」


我慢できない、と泣きそうに見上げた仙蔵の真っ赤な目玉を文次郎は何故か咄嗟に舌で舐めてしまった。なんとなく、これはいかん。良くないと思っていると湿った柔らかいものに眼球を拭われて、それで案外仙蔵は痒みが癒されたらしい。嗚呼、と溜息交じりにほっとしたよう喘いだ。文次郎は腰にずしりと重い疼きを感じる。


「もっと舐めてくれ文次郎…」

いい加減自分も別の方向に我慢の限界だと思いながら、もう片方の目に文次郎は舌を伸ばした。

 
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