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言わずもがな/悪趣味な雷蔵


▼言わずもがな



 「愛してると言ってくれ」


 三郎は雷蔵に懇願した。そんなことを懇願する三郎の目つきも声も非常に哀れな様子であるのだが、しかしその懇願は脅迫に等しい。三郎は雷蔵の喉元に小刀を突きつけている。


「言わないよ」


僕がそんなことを言わないのは、お前良く知っているじゃないか。
雷蔵は丸い目で自分に圧し掛かっている男の顔を、とは言ってもそれは雷蔵の顔なのだが、それを見返した。

「言ってくれよ」


 三郎の手が震えて雷蔵の首の薄皮をほんのちょっと切り裂いた。雷蔵は平気な顔で三郎が自分の上から退くのを待っているので三郎は焦れたらしい。

「言ってくれ、雷蔵。言わないと殺すぞ。いや、拷問にかけよう。君は私が君のことを傷一つ付けることだって出来ないと思って居るだろう。甘く見るなよ。私は結構残虐で身勝手なんだ。指に針を刺すぞ、逃げられないように足首の間接を外してやる、首に縄をかけて庭を引き摺り回して、それから裸にして君の望まないやり方で 犯してやる。ねえ、雷蔵。雷蔵、愛してるって言ってくれるだけで私はそんなことを君にしなくて済むんだ。」


 三郎は熱い視線で雷蔵が何か言うのを見守ったのだが、雷蔵は当然の様な顔をして「言わないよ」と言う。
三郎はぎゅっと苦しげに眉を寄せると雷蔵の首の傷口に唇を押し当てる。ちろり、と舌先で滲んでる血を舐め歯を立てて傷口を抉るぞ、と脅すような素振りをした。雷蔵はちょっと喉を鳴らした位で丸い目で三郎を見返している。

「本気にしてないんだろう。」


唇を血で赤く濡らして、鬼気迫る形相で三郎が詰め寄ると雷蔵は横に首を振った。


「いや、お前はやると言ったら本当にやる男だよ。仕方がない。覚悟している。」


すると今度は三郎の顔はみるみる青くなっていく。眉間にぎゅっと皺が寄って悲痛そのものと言った表情で三郎は声を上げた。


「嗚呼、雷蔵!では、君はそこまで私のことが嫌いか。」
「まさか」


 雷蔵はさらりと否定するので三郎は今度は困惑した顔になる。


「君は私が好きなのか」
「そうだねぇ」
「では、そう言ってくれ」
「それは言えないよ」


どうにも押し問答が続く。三郎は酷く混乱して片手で刃を雷蔵に突きつけてもう片手で自分の顔の表面をガリガリと掻き毟っている。どうしてなんだ、と三郎は叫んだ。雷蔵の顔を貼り付けている三郎の顔からは文字通り化けの皮が剥がれて
、ところどころ破けて見えている真の顔は恨みがましく雷蔵を見ている。雷蔵は興味深く其 れを見返した。


「どうしてなんだ、雷蔵」


とうとう三郎はぐすんと鼻を啜り上げて雷蔵に訊ねたので雷蔵は思わず笑ってしまった。ああ、そうだね、なんと言おうか。



「例えそれで殺されようと僕はお前がそうやって聞けぬ告白を迫ってくるのを聞くのが好きなんだよ」


 さあ、針でも何でも持っておいで。と雷蔵が言うと三郎は刀を放り出して両手で顔を覆った。駄目だ、到底敵う気がしない。

「全然分からない…。」

力無く呟いた三郎が手を離すとそこにはひび割れ一つ無い雷蔵の顔が出来上がっている。
また望む言葉の聞けなかった三郎は針の代わりに接吻をしながら、若しかして雷蔵は変態なんだろうか、とかちょっと思ってみるのだった。

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