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胸の内2


▼胸の内

1「僕」(或る世界より) ※パラレル



 四角い部屋の中で雷蔵は育った。日に数度、白い服を着た大人が身体の調子を訊ね、食事が差し入れられる外に他人と関わることなどまるで無かった。ここが何処なのか、自分がどういった人間であるのか雷蔵は全て知らなかった。
そこで、自分と同じ顔をした三郎という少年と四角い部屋の中で顔を合わせたとき彼はとても喜んだ。


 雷蔵は身体に病を抱えていた。年を負うごとにつれ、臓物の腐る病である。幾つまで生きられるのか、雷蔵は分からない。訊ねたことも無かったのだが、しかし雷蔵のもとを訪れる医者らしき男は根拠も無く大丈夫だと繰り返すのだった。

 雷蔵は自分の住まう部屋の隣に同じ様な部屋があることも、そこに人の居ることも全く知らなかった。12のとき、口を滑らせた大人の一人からその存在を聞いて生まれて初めての駄々を捏ねたのである。隣に住むその人間に会いたいと。そうして連れてこられたのが三郎だった。


 三郎は雷蔵とそっくりな顔立ちをしていた。多分自分たちは双子か兄弟であるに違いないと雷蔵は思っていたほどだ。そのことを指摘すると三郎は嫌な顔をした。
 雷蔵は三郎と仲良くなりたかったのだが三郎はそうではないらしく、けれど雷蔵のことをずっと見ていた。
どうするかというと雷蔵の一挙一同を尽くなぞる様に真似して見せて、それに対して雷蔵が何か言葉を発するとそれをオウム返しに返すのである。それは正確に雷蔵の言葉や仕草を模写していこうとしていた様で、数週間で三郎は雷蔵の振りが完璧に出来るようになっていた。食事を運びに来た大人はもう三郎と雷蔵の見分けが付かなかった。



しかし、雷蔵と三郎の見分けがつかないということは深刻な事態であったらしい。
何故か怒ったような様子の大人がやってきて目印をつけようという話があがった。三郎の小指を切り落としてしまうと言うのだ。このとき雷蔵は初めて自分と三郎とでは大人たちの扱いの違うことに気がついた。
雷蔵と三郎はふたりで無表情に部屋の角に並んで立っていた。


「三郎、来い」


鋏のような鉛色の器具を手にした男が部屋の扉の前に立ってそう呼んだ。男はどちらが三郎か分からないようだった。
雷蔵が三郎を見ると三郎は真っ青になって震えていた。可哀想だ。雷蔵は思った。そこで雷蔵は「はい」と答えて男の前に行って右手を出した。

ばちん、

雷蔵の小指の先は無くなった。けれど悲鳴を上げたのは三郎だった。男は意外に丁寧に素早く雷蔵の傷口を消毒して塞いで包帯を巻いてくれた。男が帰ったあと雷蔵が振り向くと三郎は顔を覆って泣いていた。

「痛くないよ」

雷蔵は声をかけた。痛くないわけではないけれど、病の所為で身体が痛いのは慣れていた。

「ごめん、ごめんね、雷蔵ごめんなさい」

三郎はこのとき初めて雷蔵の名前を呼んだので雷蔵は嬉しくてへらへらと笑った。三郎はまためそめそとしたが、雷蔵の知る限りこれが三郎の泣いた最後の日である。



雷蔵が次の朝起きた時には三郎はどうやったものか自分の右手の小指を切って捨ててしまっていた。三郎は誇らしげな笑顔を見せた。雷蔵の真似で無く三郎が笑うのを雷蔵は初めて見た。

「雷蔵のことが好きになった」

また見分けの付かなくなったふたりはそれから恋人みたいになった。






 やがて雷蔵は三郎と身体を繋いだ。
当然のことだった。四角い部屋で三郎は唯一雷蔵を慈しむものであったし、雷蔵が唯一慈しんでいるものだった。雷蔵は他に向ける相手の無い全ての愛情を三郎に傾けていた。
年は15のことである。

「あ、ぅ・・・ッ」

 裸にした雷蔵の身体に自身を埋めてゆっくりと慎重に三郎は揺するのだが、それでも首を逸らして苦しげに雷蔵は呻いた。雷蔵の病は進行していた。

日増しに機能の悪くなっていく臓物は、性交の様な激しい運動に耐えてくれないらしい。鼓動にあわせて早くなる血流はあちこち塞がりかけている雷蔵の血管を圧迫するばかりで、雷蔵は身体のあちこちが痛んだ。雷蔵は口を開いて忙しなく酸素を求めているが脆くなった肺は雷蔵に十分な酸素を送らない。弛緩した筋肉は肉を支える力が殆ど残っていなくて寝転がっていると気道が塞がってしまう。痛みと苦しみに雷蔵はぼろぼろと涙を零している。

「やめよう。苦しそうだ」


三郎が余程苦しげな顔でそう言ったが雷蔵は三郎の首に腕を回したまま離れない。

「大丈夫、…気持ち良い」

雷蔵は酷い汗を流して息も絶え絶えと言う様子であるのに幸せそうに目を細めている。だけど、ゆっくりして。掠れた声が懇願する。三郎は頷いて雷蔵を抱きしめて、手のひらで愛しげに病んだ器官を抱えた雷蔵の身体を撫でた。ぞわりと肌を粟立たせて雷蔵が吐息と一緒に喘ぐ。
三郎の目が三日月形に細められた。


「私は雷蔵のものになる為に生まれてきたんだよ」


全て何も知らない雷蔵はその言葉と胡散臭い愛の告白との差も知らずに頬を火照らせ笑った。





2、「私」


これまだ訳分かりませんが、次からちょっと話が分かるようになります。
ここから人道的に酷い話になります。ご注意ください。



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