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押入れ篭城※/ リクより。狭い所で隠れてエッチ。三郎が外道です。


▼押入れ篭城



 鉢屋三郎は悪戯好きな男として知れている。
悪戯好きな性格であるからこそ三郎はその限度を弁えていて、深く人の恨みを買ったり許されない仕業は決して仕掛けない。それは今後も許される程度の娯楽としての悪戯を楽しむための境界線であるから、三郎は滅多なことでそれを破ったりしないのである。

だから三郎が自分の仕掛けたことで、心からの怒りに満ちた被害者に追われて逃げてきたというのは意外にも非常に珍しいことなのだ。

 突風の様に自室に駆け込んできた三郎は、何事かと目を丸くしている雷蔵の身体をひょいと抱え上げるとそのまま押入れに放り込んだ。

「わ、」

何をするんだと軽く非難の声を上げかけた雷蔵の口を素早く手のひらで塞ぐと三郎はしぃっ、と短く息を吐いて沈黙を促した。
共同で使っている押入れは雷蔵の大雑把な片付けの仕方の所為でごちゃごちゃとして狭い。その雷蔵一人で十分に窮屈なスペースに三郎は身を滑り込ませるとぴたりと戸を閉めた。

『すまない、雷蔵。ちょっと付き合ってくれ』

 空気を揺らすように伝わってきたのは日頃ふたりの間で使用している矢羽音による暗号だ。あくまでも気配を洩らさぬようにと気を配っているらしい三郎の様子に雷蔵も状況が分からないなりにすっと息を潜めた。

『流石、雷蔵。』

 察しの良い雷蔵の反応に三郎は笑みの形に唇を吊り上げた。雷蔵が閉め切った戸の向こうへ意識を向けるとパタパタと廊下を走る複数人の足音が聞こえ、部屋の入り口で止まった。ガラッと部屋の襖の開く音と同時に聞こえてきたのはおそらくくの一教室の生徒であろう女の声である。

「いない」
「逃げられた?」

 2人、いや3人だろうか。交わされる会話は明らかな怒気を含んで部屋の主を探している。

『また悪戯をして怒らせたんだろう!』

 雷蔵もまた矢羽音でもって鋭く追求すると、今度ばかりは仕方のないことだったんだと真面目な顔で三郎が応じた。


「ねぇ、不破の部屋って此処でしょう」
「待ってれば」
「そうね、帰って来るわね」


くの一達は部屋の前で張り込みを決め込んだらしい。部屋前の廊下からひそひそと話し声が続いている。
だがそれよりも雷蔵は気になる点があった。くの一たちの先程の言いぶりでは探しているのは三郎ではなくてむしろ、

『まさか三郎、僕の顔で何か…』

雷蔵が眉根をきつく寄せて三郎を見遣ると三郎は片手を顔の前に立てて謝罪の仕草をした。思えば追われているのが三郎なら適当な誰かに変装してやり過ごしてしまえばいいだけの話なのである。
それがわざわざ雷蔵の身まで隠させたということは、それなりの理由が在ったわけである。

『お前っ…』

思わず身を起こしかけた雷蔵を三郎は慌てて背中から押さえ込んだ。押入れは丁度壁の高さの真ん中の辺りで上下二段組に分かれているから雷蔵達のいる下段の天井の高さは部屋の半分なのである。あまり大きく動くとすぐに居場所のバレるような物音がたってしまう。

『すまない、雷蔵。あとでちゃんと怒られるから今は隠れて』

言いながら三郎は雷蔵の身体を慎重に引き寄せて自分の足の間に座らせた。追っ手が部屋の前に陣取ったらしいとなるとこの押入れ篭城は長期戦となりそうである。出来るだけ身体を寄せて無理の無い体勢を取らなければ狭い空間に篭り続けるのは難しい。

『雷蔵、頼むから』

背後から回した腕で雷蔵の腰の辺りを引き寄せて三郎は自分の胸と雷蔵の背をぴたりと合わせた。肩越しから雷蔵の耳元に口を寄せて潜めた声で、お願い、とこれは肉声で囁くとひくりと雷蔵の肩が震えた。


『…見つかったら?』
『きっと顔の皮を剥がれて校門脇の桜の木に吊るされてしまうよ』

一体なにをしたというのか。冗談の様に笑ってみせる三郎がそうそう激しい恨みを買うようなことをするとも雷蔵には思えないのだが、なにしろ天才のすることは分からない。

 深く溜息を吐いて見せた雷蔵の反応を許しととって三郎は懐くように鼻先を雷蔵の首筋に摺り寄せた。
項を擽る感触に、雷蔵は緩く頭を振って逃げようとする。それを追いかけるように三郎の唇が付いてきて結い上げた髪の生え際をちゅうっ、と音を立てて吸い上げた。

『三郎!』

すかさず抗議の言葉が雷蔵から発せられるが、三郎は悪びれない様子である。

『だって、雷蔵とこんな近くで二人きりで』

 べろりと三郎が舌で雷蔵の耳を舐め上げると、三郎の腕の中で雷蔵の背中が震えるのが分かった。雷蔵はきつく下向きに首を逸らして真っ赤に血の気の上った耳を庇っている。
 代わりに殊更に無防備になった項にまた唇を寄せて舐めたり、吸ったり、軽く歯を立てたりしていると押し殺した雷蔵の呼吸が僅かずつ乱れていく。

「っぁ、」

荒く上った吐息に声が混ざり、雷蔵ははっとして両手で口を塞いだ。

『大丈夫、この位なら外の声に紛れて聞こえてないよ』
『…見つからないようにって言ったのはお前じゃなかったのか?』

雷蔵が咎める口ぶりで伝えると三郎は思案気に目を細めた。

『いっそ見つかった方が諦めてくれるかも』
『え?』


三郎はそれきり答えず背中から抱き込む形で回した腕を着物の袷に滑り込ませてくる。黒い前掛けもたくし上げて素肌の上を滑る指は、すぐ近くに人の居ることに対する躊躇いはまるで無いらしい。
 再び首の後ろや耳の裏を舌で擽りながら、胸の突起を指先で摘ままれるとびくりと跳ねて雷蔵は背を反らした。

感度の良い反応に気を良くして三郎は雷蔵の左右の胸を両手で弄り始める。爪先で軽く弾いて、指の腹で押し潰して、しつこく刺激を加えられた乳首は赤く熟れてぷくりと膨れている。

きつく手のひらで口を覆っている雷蔵は声を押し殺しているが、吐き出される息は荒く短い。

やがて胸を弄んでいた手が降下して器用な指が袴の紐をほどきにかかる。慌てた様に肩越しに振り返った雷蔵の視線に三郎は宥めるような笑みを浮かべる。


『雷蔵、ちょっと腰浮かせて』


雷蔵が躊躇う素振りを見せると三郎はからかうように声を立てずに笑って、袴の布地の上からも勃起していると分かる雷蔵のそこを手のひらで押さえた。雷蔵の頬がかァッと紅潮したのが暗がりにも三郎に伝わった。

ぐりぐりとにじるように手のひらに圧を加えていくと雷蔵は小刻みに腹の筋を痙攣させる。
くっ、と喉奥でうめいたのは限界が近いらしい。

『待って』

切羽詰まった様子で三郎を呼び止めた雷蔵は流石に着衣を汚してしまうのは忍びなかったと見える。
三郎の手を制して、雷蔵はそろそろと膝立ちになった。

その腰を支えて三郎は雷蔵の袴と下帯を膝の辺りに纏めて落とす。天井が低いため膝で立つと頭を下げなくてはならず、俯いた視線の先で雷蔵ははしたなく先走りに濡れて起立する己の性器を正視するはめになる。

『三郎、やっぱりやめよう・・・こんな』

珍しく気弱な台詞を吐いた雷蔵の附せた睫毛の先が緊張に震えている。これ以上ことを進めては部屋の前の人間に気付かれない自信はないのである。

『我慢できなかったら声出してもいいよ、雷蔵』

気付かれたらそれはそれで都合がいいのだと言う三郎の考えは雷蔵には分からない。常に無い意地の悪さにただ薄ぼんやりと機嫌が良くないようだと察するぐらいである。

口にくわえて湿した指で三郎は雷蔵の尻の間を探る。入り口付近を指の腹で確かめるように押し揉んで、ゆっくりと指の先が第一間接まで埋められる。


  腹の虫の居所が悪い時分でも三郎の愛撫は丁寧すぎる程に丁寧である。ゆっくり円を描くように掻き回して周囲を緩ませると、指を根本まで差し込み、引き出し、を繰り返す。
繰り返したところで指を増やし、また同じ手順で解していく。雷蔵の膝はガタガタと震えて今にも崩れ落ちそうである。

「ハッ、ハッ、・・・ぁ、」
『もう平気?』

首を幾度も振って頷く雷蔵の後ろで衣擦れの音がして三郎も袴の前を寛げているのだというのが分かる。
やがて宛がわれた性器が充血して疼いている後孔を押し広げて慎重に先端が挿入される。

「・・・っ、く」
『もう腰下ろしていいよ』

三郎が囁く。
雷蔵の足にもう殆んど立っている力がないのも、腰を下ろせばより挿入が深くなるのも分かってのことだ。まだ息の整わない雷蔵は首を横に振ったが、三郎は今日はとことん意地の悪いつもりらしい。雷蔵の前に手を伸ばすと放っておかれていた性器を握り強く擦り上げる。

「・・・ひ、・・・ッ!」

背を跳ねさせてがく、と雷蔵の身体が崩れ落ちる。同時に奥まで差し貫かれて、衝撃にぼろぼろと涙が雷蔵の目から溢れた。

その背中を宥め透かすように抱いて三郎が緩く雷蔵の腰を揺らす。

「っ、・・・ン、ん!」

噛み殺した嬌声は身を潜めるには少し危うい大きさになっていく。もうすっかり目の前の快楽に没頭し始めている雷蔵に三郎は唐突に持ちかけた。


『表に居るやつらの内の一人』
『え?・・・あ、』

三郎が口にして漸く表に人のいた事実を思い出して雷蔵は一気に肝の冷える心地がした。
何もこんなときに態々思い出させなくても良さそうなものだ。慌ててきつく唇を噛むのと三郎が下から緩く突き上げたのが同時だった。

「―――っ!」

寸でのところで悲鳴を噛み殺した雷蔵は恨みがましく三郎を睨んだ。三郎は不規則に雷蔵を揺らしながらそ知らぬ顔で言葉を続けている。

『雷蔵のことが好きだって。私を君と間違えて、告白してきた。』

心当たりは?と聞かれても雷蔵に思い当たる節もない。くの一教室の生徒など実習で顔を合わせたことがある程度でひとりの名前も覚えていない。
意外そうな顔をした雷蔵に、君は優しいからな、等と三郎は言って鼻を鳴らした。

だからさ、

『だから笑い飛ばしてやったよ。君のフリして。物の分別も付かない盛りの付いた馬鹿な女だって。周り中の人間にも聞こえるよう言ってやったもんだからもうあの通り』
『なんてこと言うんだ、お前…』

折角の好意に唾を吐かれ酷く傷ついただろう少女のことを思い雷蔵は眉を寄せた。咎める言葉を探しあぐねる合間にまた突き上げられて意識がバラバラに崩れる。
雷蔵の額に浮かんだ汗が玉になってぽたりと床に落ちた。

『私と見分けが付かないくらいだ。そもそも私という度々君の顔を拝借している男が居る事も知らなかったらしい。なんにせよ口で言うほど君のことを好きでなんかないのさ。何も知りもしないで、優しい真面目な不破雷蔵君、…だって。その真面目な不破雷蔵が扉一枚隔てた向こうでどんな顔で私に抱かれていることか見せてやりたいよ』
『三郎、』
『見せてやりたい』

三郎はぎゅうっと雷蔵の背を抱き寄せて言う。
相変わらず子供のような男だと雷蔵は思った。この狭い苦しい中での茶番のような性交もつまらない独占欲の表れであるらしい。これはひとつみっともない嫉妬はやめるようにと諭してやらなければとも思ったのだが、身体を貫かれて散々煽られた身でそれは酷く億劫なことである。
 

「じゃあ見せてやれば良いさ」

面倒そうに息を吐いて雷蔵は言った。自分から緩く腰を揺すって、小さな喘ぎ声を上げる。促すように雷蔵は自分の腰を抱いている三郎の手に手を重ねた。

「ら、いぞう」
「構わないよ。あとで誠意を込めて、…お前の暴言含み、謝れば良いだろ。許してくれるのか知らないけど。それより」

これ以上我慢させられる方が堪えると、艶を含んだ声音で雷蔵が囁くと三郎の理性もそこで限界だった。
雷蔵の腰を持ち上げて抱え直すと遠慮なく突き上げる。バランスを崩して押入れの壁、正面に手を付くと不安定に積まれていた収納物に引っ掛けたのかがさがさと何かが崩れる音がした。苦笑がどちらからともなく零れるが互いに動きを止める気は無い。


「あ、アッ!あ・・・三郎、さぶろ」

激しい抜き差しに雷蔵の声が甲高く掠れる。きゅうっと締め付けを強くする入り口と絡みつく内壁に三郎も喉を鳴らして呻いた。先に限界を迎えたのは雷蔵ですすり泣くような声を切れ切れに上げて白い精を飛ばした。背中ごと脱力した身体を預けてくる雷蔵を支えながら、自身を抜き出し二、三度扱いた三郎もまた吐精を迎えどろりとした白濁が雷蔵の背と三郎の腹を汚した。



押入れから這い出た時分には、狭苦しい密室での情事の所為で二人揃って汗でぐっしょりと濡れていた。

「いつの間に帰ってたんだろうね」

結局部屋の戸の前には誰の気配もなく雷蔵はそっと息を吐いたのだが、声で気取られて呆れて帰られたのだとしてそれはそれで居心地が悪い。

「私が雷蔵に指入れた辺りから帰ってたみたいだったな。くの一棟も授業なんだろ。鐘も鳴ってたみたいだし…雷蔵、夢中で気がつかなかったろう」
「鐘…?」

ぼんやりと呟いた後、雷蔵はさぁっと青褪めた。

「三郎!午後の授業が始まってる!!」
「えー、いいじゃないか。なんか学園長の突然のおつかいで…とか言っておけば。あ、私が学園長に変装して適当に…」
「馬鹿っ」

罵声と共に汗やら精液やらを拭っていた手拭が容赦なく投げつけられ三郎はそれを顔面で受け止めた。
ベトベトの制服を脱ぎ捨て、予備の制服にとすばやく身支度を整え直している雷蔵は今からでも授業に加わる気らしい。ぼうっと眺めていると雷蔵はきっ、と三郎に向き直って先程出てきたばかりの押入れを指差して言う。

「三郎、そこ責任もって片しておけよ」

きっぱりと言い放ってそれっきり一目散に学舎へと走って行ってしまう。
その後姿を見送りながら三郎は、真面目で優しい不破雷蔵、と口の中で復唱してみた。

「…真面目なのは確かだな」

べとべとの手拭を顔から引っぺがして、三郎はすっかり獣臭くなってしまった押入れの掃除へと取り掛かったのであった。





あとがき
三郎は雷蔵の前だから少し良い子ぶってるので、本当は「物の見分けも付かない癖に発情してんじゃねェよこの雌豚が、表に野良犬が居るからそれとでも交尾してろよファック!」位のことは言った筈です。雷蔵スマイルで。ゴミ虫のような男ですね。

このゴミ虫は雷蔵が責任を持って土下座させました。(ゴミは私です。すいませんでした)
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